東京安全鴉

サーカス

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 最近よく夢を見る。夢を見るというのは、つまりは睡眠が浅いのであって、ロマンチックな意味合いは全くない。

 もう何日も十分な睡眠がとれないのであって、これで、いいの?いいの?このままでいいの?生きてていいの?とか思ったり思わなかったり、定かではない今日この頃なのですが、どっちでしょう、とかいっても、僕にはわかりません。わかりそうになるのが、夢を見るのが嫌なので、眠剤とアルコールを流し込みます。薬を飲むと、どうしても健忘が起こってしまう。平衡感覚が無くなり、暗闇が迫り、影が何らかの形を描くところで、寝て、翌日記憶がない。自分が何を言ったかも分からず、ただ間抜けな笑みを暗がりでヘラヘラ浮かべてもう、これでは白痴そのもの。そうして、この白痴は一人夢の世界へと旅立つ。このまま帰ってこなければ万々歳、僕みたいな人間がいなくなることはなんて素敵、幸福、美しい、とは思うものの必ず目が覚めてしまう。その夢も決して居心地のいいものではなく、グロテスクだったり、極彩色であったり、とても気持ち悪く、僕は夢にすら拒絶される。でも、変に安心する。夢の中で自分の理想の世界を得たら、きっと僕は自殺してしまう。そんなのは嘘で、まやかしで、何の意味も持たない。それは僕自身が無価値であるようで、なんだか、とてもやりきれぬのだよね。

 というわけで、昨日の事ですが、つうか、昨日か今日かもわからないんですが、というのも、毎回毎回同じような夢ばかり見てたら日にちの感覚なんて無くなります。で、とにかく、夢では、冷蔵庫が空っぽなのです。こんなことは現実であるはずがないので、ああ、これは夢なのだな、参ったなぁ、と思ったのですが、目が覚めて喉が渇き、冷蔵庫を空けると、また空っぽ。あれ、これはおかしいぞ、と思い外を見回すと、窓からは光が差し込み、完全に昼で、わかった、僕は昼寝をしていたのだな、と得心がゆき、徐に外に出ると、育てているサボテンに大量の毛虫が沸いている。そしてその中の一匹は人の顔をしていて、僕は人面毛虫とは珍しいなぁ、とか思うと、人面毛虫は僕に向かってああだこうだ言いますが、全く聞き取れない。耳を澄ますと漸く聞こえ、どうやら、お前は一生出られない、と言っており、これは面白いなぁ、あはは、と腹を抱えて笑ってしまいました。例え牢屋に入ろうが、夢に囚われようが、そんなのはどうだっていいんだ。僕は生まれた時から一番狭い檻に閉じ籠ってるんだ。それは僕の頭のなかにあるのです。覚める事ができず、一生閉じ込めても、僕はこの小さい檻からは絶対に出られないというのに、やっぱり毛虫は言うことが馬鹿だなぁ、と笑い、いい加減五月蝿いので、サボテンごと毛虫を踏み潰したところで目が覚めました。外はまだ薄暗く、夜明け前の瑠璃色に包まれてます。それなのに僕といったら、寝汗にまみれ、部屋はごちゃごちゃしており、とても汚ならしい。何か飲もうとするが、面倒臭いので、水道水を飲みます。そうして、人の息も混じってない清潔な空気を吸えば、僕も清潔になれるのかなぁ、と思い、外に出ようとしますが、如何せん薄暗くて足元がおぼつかない。漸く玄関にたどり着き、朝の空気を、吸います、生まれ変わります、と宣言して、素足で、踵の潰れたローファーを履こうとすると、なんだかぐにゅっとします。ゴミでも入ってたのかと思い覗きますが、何もない。いぶかしんで、今度は靴の裏を見てみると、そこには潰れて原型のわからない毛虫がこびりついており、汚い目で僕を見つめ、同じ言葉を、呪詛を繰り返し呟いてました。おはよう。

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