東京安全鴉

サーカス

18

 脳味噌の中がグラグラします。そうだ、虫がいるのです。紫と緑で堅い棘がたくさんついた、足の長い虫が、僕の脳味噌の中でワサワサ動いているのです。

ぎゃあ、気持ち悪い怖ろしいどうしたらいいのでしょう。そうだ害虫にはバルサン、ってことで、僕は脳内にバルサンを炊き、すると効果覿面、虫は死に絶え、活動を停止し、僕の頭蓋骨の中にも平和なひとときが返ってきたのですが、それもつかの間。臭くて臭くてたまらぬって思ったら、頭蓋骨内で虫が腐敗している腐っているのです。揺すっても棒つっこんでも腐敗した虫はどうにもならぬ、のでもういやだ、頭に虫の腐乱死体、こんな人間僕のほかにいるものか、恥ずかしい情けないみじめだ、って居酒屋でメソメソ泣いていたら、居酒屋のババァが優しくしてくれたので、僕はすっかり恋に落ちました。
 居酒屋のババァはもう八十を数え、腰はひん曲がり、肌はしわくちゃの上にシミだらけで、近づくと雑巾の臭いがするけれど、僕だって頭のなかで虫を腐らせているのだから偉そうなことは言えぬ、ババァと恋に落ちました。腐敗した虫もこれでいいと言っています。僕もそう思います。そうして僕はしあわせしあわせに暮らしました。さようなら、さようなら。

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